新型肺炎(SARS=重症急性呼吸器症候群)に感染した台湾人医師が関西を旅行していた問題で、大阪府などが5月23日に「安全宣言」を出してから約1ヵ月がたちました。この間、府は、初動体制の充実を中心にした対応指針の緊急体制版を策定(3日)。
10日には府議会健康福祉常任委員会で集中審議もおこなわれました。日本共産党から質問に立った黒田まさ子議員に、質問の要点や今後の課題などについて聞きました。
医療体制
−−−台湾人医師の問題を教訓に、府は、SARS対策の「緊急体制版」を策定し、集中審議でも初動体制などが論議になりましたね。
黒田 はい。私は質問で、今後の対策の大きな課題として、医療機関の充実に力点を置きました。
「緊急体制版」によると、院内感染を防止するため
病室の外に空気が流れないようになっている陰圧化病床は、特定感染症指定病院の泉佐野市民病院、第1種感染症指定病院の堺市民病院と大阪市立総合医療センターの3ヵ所で、6床あります。第2種感染症指定病院は5ヵ所ですが、陰圧化病床は同じ3ヵ所で26床。合計32床です。
問題はそれ以上の感染者が発生した場合で、「緊急体制版」では、「府内の病院の協力を得」るとされていますが、結核病床を除く陰圧化病床は79床。そのうち最も役割を果たすべき、国公立病院や日赤などの公的医療機関、大学病院などの病床数は、府答弁やその後の私の調べで、合計34床しかないことが分りました。しかも、これらのベッドが常に空いているわけではありません。
府は「国基準を上回る病床を確保している」と説明しましたが、私は「公立病院を中心に陰圧化病室を増やすこと、そのためにも府として必要な財政援助をしつつ、国にも要望を」と主張しました。
もう1つは初期診療の問題。5月16日から6月3日までの府民の電話相談では、「感染への不安」が43・7%を占め、泉佐野市民病院には「不安例」の相談が殺到しました。
「緊急体制版」では、「疑い例」や「疑い例に満たない場合」に対応する、初期診療をおこなう病院は保健所が確保すると明記されています。現状を確認したところ、「1保健所当たりおおむね1ヵ所以上確保している」との答弁でした。
しかし、これでは少なすぎるし、行政区に1ヵ所以上必要です。初期診療こそ、確実な診断が必要。いざ患者が出れば移送や院内感染予防などが問われるだけに、公立病院の役割が大きいのです。私が「市立・町立病院側の要求もよく聞き、目標を定めて、初期診療機関を確保するべき」と求めたのにたいし、府は「すみやかにリストアップしたい」と答えました。
情報公開
−−−「緊急体制版」では、情報公開も今後の課題の1つになっています。
黒田 そうですね。「緊急体制版」では「情報の一元化と統一的な対応」「情報公表のガイドラインを策定」するとしています。私は質問で、重要なことは、感染症では「情報公開が最大の予防」との立場ですみやかに策定するよう求めましたし、府も「人権に配慮しながら、2次感染防止を最優先にするため、公表が最大の予防と考えている」と答弁しました。
行政のIT化とあいまって、SARS関連の情報もホームページで提供されていますが、インターネットはまだ全世帯に普及している状況ではありません。私は質問で、テレビやラジオでスポット広告を出すよう求めました。これは大阪府保険医協会も府に要望されていますが、府側は「検討してまいりたい」との前向きの回答でした。
海外からの入国者にSARSについての質問票を配る検疫官=5月26日、関西国際空港検疫所
|
初動体制
−−−台湾人医師の問題では、府への第一報から対策本部会議の開催まで12時間もかかるなど、対応の遅れもクローズアップされました。
黒田 私も質問で確認して改めて驚いたのですが、健康福祉部の地域保険課長や医療対策課長に情報が届いたのは、当日午後5時から6時の間。
同部の次長は午後4時45分に厚生省から聞いたというのです。結果的に2次感染者がなかったから事なきを得たものの、もし感染者がいたら、府の責任は免れません。
太田房江知事は当日、自らの後援会の集まりに出席していました。会場に着いた午後6時15分前後に報告を受けたが、府庁に戻ったのは午後8時ごろ。乾杯が終わって7時半過ぎに会場を出たということです。
知事は危機管理の最高責任者です。非常事態が発生しているのに、なぜすぐ行動しなかったのか、私は質問で知事に反省を求めるとともに、「これは知事1人の問題ではなく、庁内の構造的なものだ」と指摘しました。
府民の命に責任を持ち、「命の構え」をきちんとすることこそ、府政の最大の責務です。日本共産党議員団としても引き続き、SARS問題はじめ感染症対策の充実へ。府民・関係者の皆さんとともに力を尽くしていきたいと思います。
2003年6月22日付