大阪府知事 松井 一郎 様
2013年1月9日
日本共産党大阪府議会議員団
団長 宮原 威
くらしの応援、雇用の拡大、中小企業の振興で景気回復をはかる府政を
−2013年度予算編成と施策等についての重点要望−
はじめに
産業別常用労働者1人平均月間給与額(規模5人以上)は、1998年の40万2,148円以降、低下傾向をたどり、2011年度も下げ止まらず、34万1255円と98年比84.9%に低下している。
府内の生活保護世帯は22万726世帯(2012年8月現在)と前年同月比で2.8%増え、10年間で1.9倍に増加し、生活保護率は3.41%と全国平均1.67%の2倍以上となり、大阪における貧困の拡がりは深刻である。
雇用をめぐっても、7〜9月期の完全失業率は5.6%と昨年に比べ1.1ポイントも増加し、完全失業者数も24万3000人と、昨年同期(19万4000人)に比べ25.3%も増加している。
消費の落ち込みも深刻である。大型百貨店販売額が1991年の1兆5970億5900万円をピークに2010年には8058億3000万円へと大きく後退してきた。昨年4月以来、下げ止まりの傾向が見られたが、今年5月以降、再び対前年同月を下回っている。スーパーも、今年4月以降、8月を除いて、対前年同月を下回っている。
このような雇用と消費の後退を反映して、府税収入は2012年度当初予算ベースで、実質税収が8876億円、法人2税が2444億円で、2007年度決算に比べ、それぞれ76.6%、43.1%にダウンし、歳入不足が年々深刻さを増している。
以上の状況は、賃金の低下と雇用の悪化が消費を冷え込ませ、大阪経済の後退と府の財政危機をもたらしていることを示している。
その中で大阪府は、大企業誘致に巨額の補助金を支出し大阪再生をすすめる、としてきた。ところが、企業誘致補助金を受けて大規模な設備拡大をすすめてきたシャープ・パナソニックなど電気・情報産業が、深刻な不況に陥り、13万人規模の大リストラをすすめている。
地方自治体がいま役割を発揮すべきは、「大阪都」や「道州制」推進、福祉や雇用を置き去りにした大企業の国際競争力支援などではなく、地方自治の本旨にもとづき、住民福祉の向上を基本に、疲弊したくらしと地域経済の活性化につとめることである。
昨年は、中央自動車道トンネル天井板落下死亡事故など既存施設の老朽化による事故が相次いだ。新名神をはじめとする高速道路建設ではなく、府民に安全・安心を保障する身近な公共事業こそ求められている。
全原子力発電所が操業停止した中で、昨年7月、政府は大飯原発3・4号機の再稼働を強行したが、電力需要は昨年夏のピーク時でも原発の再稼働がなくても賄えたことが明らかになった。原発ゼロ、自然・再生可能エネルギー拡大の取り組みが急務となっている。
昨年末の衆議院選挙で、政権が民主党から自民党・公明党に移行した。民主党が大敗北したのは、自らのマニフェストを投げ捨てて、消費税増税法案を成立させるなど、国民の期待を裏切ったからである。自民・公明党が政権を取り戻せたのは得票数を減らしても議席を2.5倍に増やせるという小選挙区制の結果でもある。
今後、自民・公明党政権が、消費税率を引き上げ、国債増発と公共事業拡大、金融緩和によるインフレ政策などをすすめることにより、日本経済と国民生活のいっそうの悪化が懸念される。
貴職におかれては府民が主人公の立場で府政を運営されるよう、以下の来年度予算編成と施策に関する要望を行うものである。
1 中小企業振興と大企業の社会的・地域的責任
(1)中小企業向け融資への預託金を元に戻すなど制度の改善をはかる。中小企業金融円滑化法の延長を求める。
(2)「特区」など大企業依存型の成長戦略でなく、中小企業振興基本条例を具体化するため、「中小企業振興会議(仮称)」を立ち上げ、中小企業振興計画を策定する。また、条例の「基本方針」具体化のための施策を検討するワーキンググループを中小企業者参加で立ち上げる。
(3)各分野での施策実施に当たり、地域経済への影響を検証する。地域経済振興のために必要な予算を増やす。
(4)大阪府としても、シャープ、パナソニックなど電機情報関連企業の大規模な雇用削減の中止を求める。新規高卒者の採用や若者の正規雇用拡大など、大企業にその力と社会的役割に応じた雇用への社会的責任を果たすよう求める。
(5)新規雇用の創出、地域の中小企業の受注増、商店街の活性化など、大阪経済の振興につながるよう経済政策を切り替える。
(6)府内経済活性化を図るために、公共事業のあり方を生活密着型、府民の安心・安全を図るよう転換する。大阪府として、35人以下学級、特別養護老人ホーム建設、住宅耐震化、独自の高齢者住宅改造予算の復活などで、雇用と仕事を増やす努力をする。
(7)「若年雇用奨励金制度」を創設し、非正規労働者の正規化など雇用を促進する企業を応援する。
(8)「大阪府公契約条例」を制定する。官製ワーキングプアをなくす。
2 医療・福祉とくらしの支援
(1)子ども医療費助成制度の拡充を国に求めるとともに、府として就学前まで拡大し、市町村とも協力して中学校卒業までへと拡大する。
(2)「子ども・子育て新システム」の撤回と待機児童解消に向けた保育所建設の推進を国に求める。
(3)子ども家庭センターの児童福祉司や児童心理司など、児童虐待に対応する職員体制の拡充を図る。
(4)保健所職員を増員し、市町村とも協力した健診や訪問などの強化により、住民の健康維持や児童虐待・高齢者虐待の予防・対策を強化する。
(5)生活保護基準を切り下げないよう国に求める。憲法と生活保護法に基づく適正な運営を図るよう市町村への指導・助言を徹底する。
(6)国保への国庫負担を1980年代半ばまでの水準に戻すなど市町村国保への支援強化を国に求める。国保証の取り上げをやめさせる。国保料の値上げにつながる「広域化」は行わない。
(7)介護保険制度の改善を国に求める。生活援助基準時間の短縮、報酬引き下げ、施設給付の削減などによる影響を調査するとともに、家族・本人負担や施設利用、介護関係労働者の実情など介護現場の実情を把握し、改善に努める。
(8)特別養護老人ホームを増やし、待機者解消を図る。
(9)高齢者の住宅改造助成事業の復活など介護予防の拡充を図る。
(10)府立救命救急センターの補助を継続・拡充し、機能強化を図る。
(11)がん検診受診料の負担軽減を図るための補助制度を設ける。
(12)福祉医療費助成制度は継続し、精神障害者への適用を拡大する。
(13)障害者が福祉や介護・医療を利用する際の応益負担を廃止し、無料化をすすめるよう、国に求める。
(14)障害者の正規雇用を増やす施策を講じるとともに、府としても障害者を積極的に雇用する。
(15)医療型障害者入所施設など、重度障害者の入所施設の整備・建設をすすめる。
(16)妊婦健診への国交付金の継続を求めるとともに、府としても負担軽減の措置を行う。
(17)ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がん予防ワクチン及びポリオ不活性化ワクチン接種を無料実施できるよう国に求めるとともに府独自の助成を行う。
(18)大阪広域水道企業団に、1?あたり約10円の水道料金引き下げを求める。
(19)ドーンセンターでの相談機能の復活・充実をはかる。
3 「即時原発ゼロ」と自然・再生可能エネルギーの拡大
(1)大阪府として「原発ゼロ、自然・再生可能エネルギー推進都市」宣言を行う。
(2)「おひさまプロジェクト(仮称)」をたちあげ、自然・再生可能エネルギーの普及に向け、市町村や大学、企業などの英知を集める。
@ 太陽光発電への府融資制度を拡充する(年間10億円程度、無利子)。
A 学校や府有施設への太陽光発電設置の年次計画を策定・推進する。
B 自然エネルギー利用の拡大や節電をすすめる府民や企業、市町村の取り組みを積極的に応援する。
(3)国と関西電力に対し、大飯原発の停止を求める。原発の重大事故に備え、放射能から府民を守る計画を立てる。
4 安全・安心のまちづくり
(1)東日本大震災の教訓と最新の知見を踏まえ、地域防災計画の抜本的見直しを急ぐとともに、具体事業を順次実施する。
(2)住宅や学校、公共施設などの耐震化推進、津波対策や水害・土砂災害対策予算等防災関連予算を増額する。
@ 住宅耐震化のための予算を20倍(年間2万戸、38億円)にする。
A 耐震改修助成は、補助率を引き上げるとともに、住宅リフォーム助成を創設し、併用して普及する。
B 学校施設の耐震化を2014年度までに完了する。
C 国の想定に基づき、大阪を襲う津波の高さに対応できるよう、防潮堤・水門の計画を全面的に見直し、改修を計画的にすすめる。電柱等に海抜を表示し、避難のための広報設備を設け、避難施設を確保する。
D 「あんしん川づくり事業」を10年で完了できるよう計画を策定し、予算を増額する。すべての河川で10年確率の大雨(50_/時)対策を速やかに達成するとともに、10年確率を超える大雨対策を市町村や住民と共同してすすめる。
E 市町村の学校と公営住宅の耐震改修への補助制度をつくる。
(3)国土交通省の調べで、大阪府は「地震時等に著しく危険な密集市街地」が全国一大きいとされている。市町村の要望を積極的に受け止め、密集市街地対策をすすめる。
(4)長周期地震動が高層ビル等の建築物に及ぼす影響について、研究と対策をすすめる。
(5)精度の高い液状化予測図を作成し、液状化対策を抜本的に強化する。液状化による住宅への被害対策に耐震改修助成に準じた助成を行う。
(6)国などと協力し、活断層調査を充実する。
(7)石油・液化天然ガスタンク等の火災対策をすすめる。
@ これまでの石油タンク等の火災原因をすべて把握し、タンクの安全点検を行う。
A 石油タンク等は、津波に襲われないよう防潮堤を設置するか高台に移設する。
B 石油タンク等の耐震改修を行う。
C タンク内の液体が、長周期地震動によるスロッシングであふれたり火災を起こさないよう施設を改善し、貯蔵量を適正化する。
(8)府庁本館の耐震化を早期に実施し、咲洲庁舎からの全部局引き揚げをはじめ、災害に強く効率的な府庁をつくる。南港地区はじめベイエリア、臨海地区の安全なまちづくりを大阪市に強く求め、ともにすすめる。
(9)府営住宅
@ 府営住宅の応募倍率は20倍という高倍率で推移している。市町村への移管計画や10年間で1万戸を削減する計画はただちに撤回し、戸数の維持と計画的な戸数増を求める。
A 家賃減免の判定における最低生活費相当額に、医療費や浴槽のリース代を含め、家賃は支払い家賃とするよう家賃減免制度を改善する。
B 名義人が死亡した際、同居していた家族が引き続き居住できるよう、地位承継できる遺族の範囲を広げる。
C 府営住宅内の低未利用地売却の対象から、公園など子どもや住民の生活に必要な敷地を除くとともに、府営住宅敷地内に以前からある公共施設について、借地料をとらない。
5 子どもたちが輝く教育の推進
(1)35人以下学級の拡充を国に求めるとともに、府として直ちに小学3年及び中学1年に拡充する。
(2)府立高校の学区撤廃は中止する。「3年連続定員割れ高校」の統廃合は行わない。生徒数の減少を好機ととらえ、府立高校においても少人数学級に踏み出す。
(3)正規雇用教員を増やし定数内講師を減らすなど、教員の多忙化解消を図り、授業準備の時間確保や子どもに向き合う条件づくりをすすめる。
(4)養護教員を増員し、複数配置校を増やす。カウンセラーを増員し、専門職としての独立性を尊重する。
(5)子どもの命を最優先に、「いじめ」の放置・隠蔽を許さないことを学校と教育行政の基本原則とし、「いじめ」被害者の安全を確保するとともに、加害者には「いじめ」をやめるまでしっかりと対応する。
体罰の禁止を徹底し、体罰を是認する風潮は根絶する。
(6)子どもたちを過度な競争に駆り立てる小中学校での「大阪府学力テスト」は実施しない。
(7)知的障害支援学校のさらなる新設計画を策定し、具体化を図る。
(8)私学助成(経常費助成)を国標準額に段階的に復元する。
(9)新たに策定する「教育振興基本計画」は、少人数学級の拡充など、全ての子どもたちの成長・発達を保障する立場での「教育条件整備計画」とする。教育委員会が主体となって策定し、知事らは教育内容に介入しない。
(10)学校・教育現場に、競争と管理、分断を持ち込む「学校評価」や「教員評価」は行わず、学校・教育現場の自由を保障し、教職員の協力・連携を強化する。授業改善に役立たず、保護者や児童・生徒と教員との信頼関係を損なう「授業評価アンケート」は中止する。
(11)経済的に困難な家庭に対する「大阪版・給付制奨学金制度」を創設する。
(12)小中学校耐震化のための市町村への無利子融資制度を創設する。
(13)小学校警備員配置のための予算を復活する。
(14)教育委員会の「改革」に向け、教育委員の準公選制について検討を開始する。
(15)国に高校教育費の無償化に踏み出すよう求める。国が制度を後退させたとしても、府としての制度は後退させない。
6 食の安全と農林水産業の振興、環境対策強化
(1)食と農、医療やくらしと雇用・経済を壊すTPPには参加しないよう国に求める。
(2)農林水産業を振興し、地球温暖化防止で役割を果たすとともに、食糧自給率の府計画を達成する。市街化区域内の生産緑地の指定を積極的にすすめる。
(3)保健所や公衆衛生研究所の機能充実、府の検疫・監視指導体制を強化して、危険な輸入食品、放射能から府民・子どもたちを守る。公衆衛生研究所の地方独立行政法人化と大阪市立環境科学研究所との統合は中止する。
(4)温室効果ガス排出抑制努力をいっそう強める。
(5)府内の緑被率を計画的に向上させる。乱開発を抑制し、自然環境の保全、回復・育成に努める。
(6)府内産食材の福祉施設や保育所・学校等での活用など、地産地消を推進する具体的計画をつくる。
(7)有害鳥獣対策を強化する。
(8)府内産木材の利用を促進する補助制度をつくる。間伐への助成、立ち枯れ対策、後継者育成など森林の保全と振興に努める。
7 大阪文化の振興
(1)中之島図書館は廃止しない。
(2)文楽協会への補助金は削減しない。
(3)ワッハ上方は存続させる。
(4)国際児童文学館は、学芸員を確保し、機能を充実・強化する。
(5)大手前・森之宮のまちづくりは、歴史と文化を大切にし、住民合意ですすめる。
(6)ピースおおさかは、財団の自主性を尊重し、補助金を削減しない。「近現代史施設」構想はやめる。
8 地方自治と府政運営のあり方、国政への働きかけ
(1)府政運営は「住民福祉の増進を図ることを基本」とし、巨大企業の呼び込み・競争力強化への支援、インフラ整備などに偏重しない。住民の声をよく聞き、施策に生かす。
(2)「大阪都」法定協議会の運営は、情報公開と住民合意を徹底する。府市統合本部は解散する。
(3)この間制定された職員・教員関連の条例は廃止し、「職員の政治的行為の制限に関する条例」等は制定しない。府政運営にあたっては、府民のために英知と熱意が生かされ、職員集団の力が発揮されるよう民主的に行う。
(4)大阪を解体し、住民自治破壊につながる「関西州」にむけた取り組みは止める。
(5)指定管理者制度の運用に当たっては、管理の質の低下を招かないよう手だてを尽くす。
(6)消費税の増税は中止し、大企業への優遇税制の是正や富裕層への課税強化などで、消費税に替わる財源を確保するよう国に強く求める。
(7)削減された地方交付税の回復などを求めるなど、地域活性化と福祉向上のための財源を確保する。地方法人特別税は廃止し、法人事業税の一部として復元する。
以 上
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