財政再建 開発 同和 国政触れぬ
橋下知事 3つの「聖域」
日本共産党府議団 宮原威団長に聞く
橋下知事が就任してから1カ月余りが経ちました。2月29日には2月府議会が開会し、府議会の本格論戦が始まっています。橋下府政をどうみるが、府議会にどう臨むかについて、日本共産党大阪府議会議員団の宮原威団長に聞きました。
――12月29日に橋下知事が所信表明を行いました。
宮原 所信表明とともに、2月22日の暫定予算案、27日の「今後の財政見通し」を通じて、橋下府政が何をしようとしているのかが、かなり見えてきたと思います。
「財政非常事態宣言」まで行った橋下知事ですが一連の記者会見や所信表明で「聖域なき見直し」を言いながら、府の財政危機をもたらした3つの大問題に、間接的にでさえ、一切触れていません。
建設事業費で今後も借金を
第1は、開発優先、大型開発の無駄遣いです。所信表明で橋下知事は負担を将来世代に先送りするくらいなら、「今の世代が全て泥をかぶるべきだ」とまで語りました。
ところが、「今後の財政見通し」では、「建設事業に充てる府債は活用する」と宣言しています。
08年度は府債発行額980億円のうち、建設事業費は860億円(87・7%)。
21年度までの発行総額は1兆3千億円で、うち建設事業費は1兆1240億円(86%)にのぼります。
建設事業には府営住宅の建て替えなど必要なものもありますが、大型開発も含んでいます。
大阪府は関空2期事業や「水と緑の健康都市(箕面森町)」、安威川ダムなど5つの開発だけでも08年度から4年間で1300億円を投じる予定ですが、これらを基本的に進めていくということと、ほぼ等しい関係になったということです。
これはマスコミでも全く触れていません。
第2に、同和行政についても橋下知事の口からは一言も出ておらず、暫定予算でも本格的に見送られたものはありません。
国の悪政にも一切触れず第3は、国の三位一体改革」による地方税財源の締め付けにも一切一言及していない点です。今、全国で大問題になっている自治体の財政悪化の最大の原因は、国が地方交付税を大幅に削減してきたことにあります。大阪府では03年度と07年度を比べると、2千億円も減っています。
知事選にかけた府民の願いは、「大阪府政は府民のことを考えていない、おまけに大赤字。こんな大阪を変えて暮らしをよくしてほしいということだったと思います。ところが今指摘した3つの大問題について、あれほどたくさんしゃべる橋下知事が、一言も触れていないのは不思議です。この3つの大問題を大いに論戦で提起し、知事の対応を注目していきたいと思います。
子どもや中小企業が泣く
――暫定予算案の特徴について聞かせてください。
宮原 はい。軒目定予算案では、「開発」と「同和」はメスを入れていない一方で、福祉や教育、医療は傷ついています。
具体例を挙げましょう。同は新年度から、子どもとnき合う先生の時間を増やす目的で、常勤・非出勤を含めて全国で約8200人の教員の増員を決めました。大阪府には常勤講師を200人、非常勤講師700人の配置が内示される予定でしたが、暫定定予算で計上していません。
8月以降の本予算で予算が付いても、講師確保の見通しは厳しく、教育効果は大幅に減るでしょう。「子どもが笑う」どころか、「子どもが泣いて」います。
橋下知事は所信表明で、大阪経済の活性化に言及し、「中小企業のオンリーワンの輝きこそが、大阪の力の源泉」などと述べました。ところが、暫定予算では、多くの中小業者が06年度に実現した「ものづくり基盤技術高度化支援事業費」は組まれていません。
商店街の活性化へ商業者や消費者も交えて20数回の議論を踏まえてつくられた「商店街いきいき元気づくり事業費補助金」は不計上です。
これらの事業は5年、10年と続けてこそ、効果が現れるものです。それが断定予算にも組まれず、中断する。中小企業や商店主も泣かされているのです。
市町村と一継にやる事業も、過去から継続していっていたもので125項目が、まったく予算化されていません。橋下知事は「ゼロベースで見直す」と言いますが、まさに「マイナスベース」の切り捨てと言わなければなりません。
削減はるかに上回る借金
――橋下知事は、それでも「まず財政再建」と言って、「府民にも覚悟を持ってもらいたい」と述べています。
宮原 橋下知事は「大阪府は民間でいえば破産状態」といいますが、そもそも、知事選前も、橋下知事の当選後も、府の財政危機の本質や、5兆円という借金残高も変わっていません。問題は、この財政危機が何によって生まれ、従って何を解決しなければならないかということです。
橋下知事が、歴代の「オール与党」府政が進めてきた大型開発路線に手をつけようとしていないことは、先に述べました。橋下知事は08年度から9年間に6500億円の削減が必要だと言います。ところが今後14年間に、建設事業の借金だけで1兆1240億円と、削減額をはるかに上回っているのです。無駄な大型開発を抜本的に見直し、中止・縮小しない限り、財政の立て直しようがありません。
同和事業には毎年30億円から50億円が使われていますが、人件費も含めれば、今後14年間に700億円から800億円の削減が可能です。
わが党は、いわゆるハコモノ建設について、簡素・必要性・採算性の立場で、従来から一つひとつ検討してきました。公の施設や出資法人の見直しでも、こうした基準が必要です。
資本金10億円以上の大企業の法人事業税の超過課税を、現行の1・05から1・1に0・05ポイント引き上げると、年間約100億円の税収増になります。
無駄を削り、大もうけをしている大企業に応分の負担を求めて自主財源を確保すれば、府民の福祉や医療、教育を守り、大阪を元気にしながら、再建団体に陥ることなく、財政再建することは可能です。
国にもものを言わなければなりません。国は庶民には定率減税を打ち切って増税しながら、法人税の減税だけは続けています。これを中止すれば、国の税収は4兆円増え、大阪府への地方交付税も1千億円以上確保できるでしょう。
府政の解体につながる
――橋下知事は、所信表明で「大阪府の投資会社化」を挙げ、大阪から自治体経営の革命を起こす」と宣言しました。
宮原 橋下「行革しを突き進めていけば、大阪府はますます住民から遠のくでしょう。国家の仕事は外交や防衛、大型開発や財界奉仕に限定し、それ以外のほとんどを市町村にさせるように国をつくり変える。これが「構造改革」です。その一番急先鋒に大阪府がなるというのが、橋下知事の宣言だといえます。
「財政再建プログラム」(98年)以来、横山、太田と2代の府政の下で、老人医療費助成制度は基本的に廃止され、府立高校授業料が全国一高くなり、私学助成も大幅に削減されるなど、府民の福祉や教育が切り捨てられてきました。
橋下府政は、これをとことん徹底して、府が市町村とともにやってきた府民の暮らしを応援する施策をずたずたにする。
その結果、大阪府は地方自治体でなく、文字通り、国の出張所になってしまう。限りなく道州制に近づき、府政を解体するということになっていくでしよう。
――論戦はじめ府議会内外での活動をどう進めますか。
宮原 橋下知事は、暫定予算を提案したので、所信表明も暫定的なものだと語りましたが、私たち議員団は、府民福祉の向上と財政再建を両立するという立場で、正面から論戦に挑みたいと思います。
同時に、今までとは違う府民運動が求められていると思います。財政危機は府民の責任ではなく、大型開発や同和行政を続け、国に追随してきた歴代の「オール与党」府政の責任です。マスコミも巻き込んだ「財政危機だから」という攻撃を打ち破り、要求を高く掲げて各分野で頑張ると同時に、知事選の時のように、府民の中に打って出て闘うことが必要だと思います。私たちもその先頭に立って全力を尽くします。
(2008年3月9日付「大阪民主新報」より)
2008年3月9日付「大阪民主新報」より